髭文字の読み方

ヒトラーによって髭文字(ブラックレター)は廃止されてしまったものの、昔のドイツ語の本を読むときには知らないといけない。 ここでは、フラクトゥーア体の文字を特徴別に分類(重複あり)して紹介する。

大文字

ABCDEFGHIJKLMNOPQRSTUVWXYZ

IとJは区別されないこともあるし、区別されることもある。 ウムラウトは、上に点々を付して表されることもあれば、eを上に書くこともあるし、Ueのように書くこともある。

左下が半円

CEGS

  • C E G: 左から順に C E G。よく似ているので注意。
  • S: S であって、G G ではないことに注意。フラクトゥーアで面喰う文字第二位(個人的感想)。

左上から最左の竪画に入る

AMRNVBWY

  • A: A であって U U ではない。フラクトゥーアで面喰う文字第一位(個人的感想)。
  • R N Y: 左から R N Y。R R を K K と間違えないように。
  • M W: 左から M W。
  • B V: 左から B V。

N M N M と V W V W は最右の竪画が同じ形をしている。

R NB V は当時の人にとっても紛らわしかったようで、偶に誤植されている。

最左の竪画の上が右上に流れる

HKL

  • H: H。Y Y と紛らわしいこともあるかもしれないが、中央の横画の位置でも判別がつく。(H H は中腹から横画が引かれる。Y Y は上から。)
  • K: K。初心者は R R と間違えやすい。
  • L: L。これは分かりやすい。

上部に太い横画

DTFIJ

  • D T: 左から D T。
  • F: F。
  • I J: I と J の区別のある場合は、左から I J なのだが、そもそも区別されないことが多い。

右が垂直な竪画

AU

  • A U: 左から A U。A A の左の竪画は必ず、2 の字に曲っているが、U U の左の竪画は真っ直ぐなことが多い。

円形

PVDOQ

  • O Q: 左から順に O Q。
  • V D: 左から順に V D。
  • P P。古い本で冪集合記号として使われているのをよく見るかもしれない。P P の右側が V V の様になっているものもある。

XZ

  • X X。
  • Z Z。

分かりやすい。

小文字

abcdefghijklmnopqrsſtuvwxyzß

小文字は大文字とは違って馴染み深い形をしているものが殆どなので、そうでないもののみ、例を挙げて解説する。

  • f ſ s ß 左から f ſ s ß。ここで、ſ ſ はいわゆる長い s (s longa) であって、語頭・語中で用いられるものである。対して、s s は丸い s (s rotunda) と呼ばれ、語末(正確には複合語中の形態素末も含む)でしか用いられない。偶に f ſ が誤植されているように見えるものがある。
  • r x 左から r x。r r の字形に驚く向きは無かろうが、 x x は面喰うかもしれない。
  • l k 左から l k。低品質なスキャン画像だと、k k と l l に塵のついたものを区別しづらいことがある。
  • n y 左から n y。あまり y y は出てこないかもしれないが、気を抜いていると n n に見えてしまうことがあるので注意。
  • z z。合字(見次項)になるとクルクルが取れる。

合字

以下の二字の組み合わせが語中に存在した場合は必ず合字になる。

ch ck ß tz: ch ck ß tz

また、以下の組み合わせが語中に存在した場合も合字になる。

ll ff fl ſi ſſ fi ſt: ff fl ll ſſ ſt

しかし、beſitze/Zeit‌zoneのように、複合語中の語境界(Zeit-zone)を跨がって合字になることはない。これにより、複合語中の語境界を(一部の場合に)明示することが可能になり、この点においては、フラクトゥーアによる表記は現在のローマン体によるものよりも優れているものと私には思われる。

隔字体 Sperrsatz

フラクトゥーアにはイタリックが無かった。強調の為には字間空白を各文字の間に挿入することが行われた*1。この時、ch ck ß tz ch ck ß tz は分離しない。その他の合字は分離する。

以下のようになる。

  • glückliche: g l ü ck l i ch e
  • ſchon: ſ ch o n
  • ſtellen: ſ t e l l e n

フォント

オープンソースフォントならば UniFraktur がお勧めである。 UniFraktur • Free fraktur font reſources

また、試してみたことは無いが、Linotype も合字に対応したフラクトゥーアのフォントを多く扱っている。dlig と hlig に対応しているものは、フラクトゥーアに必要な合字に対応しているのではなかろうか。

*1:行末の語の後半が意味も無く隔字体になっていることがある。これは、行末を揃えるために語空白だけでは足りなかった場合に行われている様である。